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東京家庭裁判所 昭和55年(少)7895号 決定 1980年7月04日

少年 K・Y(昭四〇・二・二二生)

主文

この事件については少年を保護処分に付さない。

理由

一  本件送致事実は、「被疑者(少年)は、第一、昭和五五年三月二一日午後〇時三〇分ころ東京都江戸川区○○××番地○○荘敷地内において、A所有の第二種原動機付自転車一台(時価三万円相当)を窃取し、第二、公安委員会の免許を受けないで、前同日午後二時二〇分ころ前同区○△×丁目××番先道路において、前記第二種原動機付自転車を運転したものである。」というのである。

二  少年は、前記第二の無免許運転についてはその事実を認めているが、第一の窃盗の事実についてはこれを否認するので、審判を開始して事実を調査したところ、少年の右弁解は肯認すべきものと認められる。すなわち、少年の当審判廷における供述および前記第二種原動機付自転車の所有者Aが家庭裁判所調査官に対して陳述した要旨を録取した同調査官の調査報告書ならびに本件事件記録を総合して考慮すれば、少年は、昭和五五年三月二一日の午前中に本件原付自転車を前記Aから借り受け、前記第二記載のとおり無免許運転をして同日検挙されたが、その際、少年は、以前に無免許運転でつかまると車を貸した所有者も減点になると聞いていたことから、所有者のAに迷惑がかかつてはいけないと思い、とつさに本件原付自転車は盗んで来た旨のうその供述をしたため、同日付でその旨の捜査報告書が作成され、また少年は以上の顛末をAに話して意を通じあつていたことから、同年四月一日付でAから盗難被害届が出され、少年が同年四月九日に警視庁○○警察署司法警察員の取調べを受けた際にも盗んだ旨のうその供述をしたため、そのような内容の供述録取調書が作成されたことが認められる。だとすれば、少年が前記第一の非行をしていないことは明らかである(なお家庭裁判所調査官の調査報告書で明らかにされている事実から少年の非行の存在を認定することはその性質上消極に解すべきであるが、本件のように非行の存在を否定する一資料として右調査報告書を用いることは何ら少年法の精神に反するものではないと解せられる)。

三  以上の次第で、当裁判所は、審判の結果、前記第一の非行は存在せずこれに保護処分を付することはできないものと認め、また、第二の非行は存在し道路交通法六四条、一一八条一項一号に該当するが、当審判廷において少年が警察官に対し真実でない供述をしたことおよび右無免許運転をしたことについて訓戒をするなどの保護的措置を講じたので、その非行の程度、態様、少年の性格および保護環境などに照し保護処分に付する必要がないものと認めて、少年法二三条二項により、主文のとおり決定する。

(裁判官 梶村太市)

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